地域と地球とホスピタリティ

僕は大体年に2、3回海外旅行に行くんですが、今まで出会ったことのない人や文化や環境に触れることによってたくさん感動すると同時に、反対に自分の住んでいる場所にしかないもの、日本の良さといったものが改めて明確に分かることが多いです。例えば、水。日本の川の水は本当に綺麗で、水道水が当たり前に飲めるのが非常に贅沢なことだっていうのは、アジア辺りをちょっと旅してみればすぐに分かることですよね。

食や建築など「目に見えるもの」から、地域性や民族性といった目に見えないものまで、数え上げたら切りがないのですが、旅をして他者の持つ文化や歴史や自然とかに触れて、感動したときにはその感動が生み出されるバックストーリーも認識して、敬い、尊重する事によってお互いにいい関係が築けるし、地球っていう場所が素晴らしい所だと、幸福を実感することができる。そうした旅をする事は人間にとって非常に意義のあることだと思うんです。

僕もビジネスクラスに乗れたらそれでいい、みたいな時代もありましたよ。でも今回オーストラリアに行ったときに感じたんですが、ゴールドコーストで2時間くらいのトランスファーがあったんですけど、ラウンジに行ってシャンパン飲んで、みたいな事よりは、もうこの2時間の間にビーチに行って、この景色を堪能して、本当の贅沢ってやっぱりこういう事かなと改めて思いました。ビジネスクラスやラウンジだとかが決して悪いっていうことじゃなく、あれはあれで素敵な時間なのですが、そこにしかないもの、その瞬間にしか決して体験できないものが、やっぱり一番の贅沢だと思いますね。

僕が長野県白馬で家族経営する旅館「しろうま荘」が、今回日本で初めて*ワールド・ラグジュアリー・ホテル・アワードのグローバルウイナーを受賞したのも、註)*2012年度スキーリゾート部門。 地元の自然や雪、スキーの文化の素晴らしさに加えて、とにかく素朴で昔ながらの家庭的なおもてなしや地元の古材を活かした建築、それから母親の作る郷土料理。そういったものの真価が世界的に認められたからだと思っています。

アワード受賞の知らせを受けたときには、えっこれうちなの?って感じでした。本当に、その世間で言うところの「ラグジュアリー」とはまったく違うというのがあったので、「間違ってるんじゃない?」なんて思ったりもしましたが、アワード側が独創的なホスピタリティこそがラグジュアリーなんだよ、と説明してくれて、たしかにそういう意味では真剣に時間をかけて考え抜いてきた部分でもあり、そうか最終的には「人」なんだな、と思いました。
これは僕らの宿に限らず、多くの日本の民宿や旅館が元来持ち合わせているものだし、とりわけしろうま荘が何か秀でているという訳ではないと思うのですけれど、そういった中で、なぜ僕らの宿が受賞したのかという理由を挙げるとすると、それら元来持っている素晴らしいものを僕ら自身がきちんと認識して、その部分を活かしながら誇りを持ってお客様に伝えるという、そういう行動をとってきたことではないかと思います。

たとえば、しろうま荘にはエレベーターがなかったり、各部屋に備え付けの冷蔵庫がなかったりするわけですが、そこに対してご意見を頂くこともあって、ある意味ではお金さえ掛ければすぐに導入することもできるわけです。でもそれはやらない。ほんのわずかでも電気の使用量が増えて、温暖化に拍車がかかることを想像すれば、次の世代では白馬でのスキーができなくなるかもしれない。そういうことよりは、僕らのポリシーをきちんとお客様に伝えて、下層階のお部屋への変更を提案したり共用冷蔵庫の利用のお願いをして、どうしても部屋に冷蔵庫が必要なお客様や、足に不自由をお持ちのお客様には他の旅館をご案内して差し上げる。そうして地域ぐるみのホスピタリティを提供してゆくことの方がはるかに大切だと考えています。

自分は世界的に知られるテーマパークで何年か働いていましたが、いわゆるホスピタリティという意味でのノウハウを培って来ました。日本では、CS(Customer Satisfaction—顧客満足)という言葉を何十年も使ってますけれども、十数年前からはCD(Customer Delight—顧客歓喜)ということが言われ出していて、これは顧客のニーズを満たすのは当然で、期待以上の感動を与えて喜ばせるということなんですが、そのあたりは、テーマパーク時代に培った経験や、僕が関わっている白馬のアウトドアイベントに関してもそうですけど、普段ビルの中でガツガツ仕事している人たちが泥まみれで自然の中を走って、「楽しかった!また来る〜」と帰ってゆく顔をみると、贅沢ってやっぱりそういう事かなと思います。

旅にラグジュアリーを求める人は多いですけれども、お客様にそうした目に見えない価値に最大限に感動してもらうためには、日常の安全性だとかはもちろん当たり前のこととして、他のいろいろなことについても、ほんとうに時間をかけて考えます。見えない「価値のあるエクスペリエンス」を提供することを続けてゆくためには、自分だけの利益を優先するのではなくて、地域や社会全体の利益向上に寄与しようという姿勢を保つことが、将来に渡ってとても重要なことだと考えているんです。
サステナビリティや新しいラグジュアリー、ということで感じるのは、逆にやっぱり古いもの。いわゆる今手に入らないものをどれだけきれいに残してあるか、というのがひとつあります。うちで言うと柱ですね。元々農家だったので、農業やってたおじいちゃんおばあちゃんの所に、スキーに来た人を泊めたのが始まりなのですが、それを綺麗に残しておきながら、「謂われ」というか、なぜこれをこういう風に残しているかというストーリーを、誰もがきちんと分かるように上手く説明できると、それはすごく価値のあるものとして引き継がれてゆきますよね。

アワードの授賞式はクアラルンプールだったのですが、一緒にアワードに参列してくれた現地の弁護士さんと、翌日マラッカという所に行ってきたんですね。マラッカは、ポルトガルとかの影響を受けている場所ですが、街は決して新しくはない。でも、当時の面影を残して綺麗に保存してあって、彼らが Beautiful!っていうものは、全部そういうものでした。お気に入りだから行こうよとか言うのでついて行くと、すごくちっちゃな宿とかで、ゴージャスなものとかでは決してなく、でも、昔のものが本当に綺麗にとってあるんです。ちゃんと残しているって感じで。 もちろん全然大きくもないし、新しくお金が掛かっているという感じでもない。でも、昔からそうやって宿やっているところを、とにかくすごく綺麗だと言って、それこそ骨董品屋さんや、彼らが感じる「いいもの」はそういうものが多かった、そんなイメージがありましたね。

自分が旅をする時には、その国や土地の人、現地自然の持つ素晴らしさに感動して、敬意と感謝を持って接しながら、反対に自分自身が自分の土地で旅行者を迎える時には、ここにしかないもの、ここでしかできない経験こそがラグジュアリーであると、僕らが客観的にそこを認識して提供する。 本当によい旅とは、他者の多様性を知ることによって、それを誇りに思うことができるようになること。そういう旅を続けてゆくことができると、現在の環境に感謝できる感性、幸せに人生を送ることができる感性が養われるし、それは人類にとって、本当に大切で価値のあることだと感じています。そして、そのような価値をいつまでも提供できる宿であり、人であり続けたいと思っています。

*World Luxury Hotel Awards http://www.luxuryhotelawards.com
丸山 俊郎
白馬村 しろうま荘支配人

1974年10月18日 白馬村生まれ 38歳

日本大学卒業後、地元スキーリゾート開発会社に勤務し、長野オリンピックイヤーを経験し国際力を醸成。 その後、オリエンタルランドに入社し、5年間アトラクションキャストとして勤務し、ジャングルクルーズ船長として人気を集める。

2005年ワーキングホリデーにて、オーストラリア・ゴールドコーストに渡豪。英語力の強化を図り、ワールドクラスのリゾート観光を学習。

帰国後、フィットネスの能力を活かし、六本木ヒルズにてゴールドマンサックス・プライベートジムインストラクターとして英語および日本語レッスンを担当する傍ら、白馬でオフィシャルイベントMCやワールドカップ等のアナウンサーを務め、現在はイベントプロデューサーも兼任。

2009年より、家業である信州白馬八方温泉しろうま荘支配人として、オーストラリアを中心とした海外の旅行客を本格的に受け入れるべく、英語の充実やサービスの拡充を図り、民宿・旅館スタイルの海外旅行者への普及に努め、2012年World Luxury Hotel Awardsにて、同旅館を日本初となるGlobal Winner受賞に導く。

http://www.shiroumaso.com
http://www.maruyamatoshiro.com/